【ヒトと生き物 インタビュー企画】第3回 小館 秀樹さん

せシうだ
こんにちわ、せシうだ(@seshiuda6162)です。

(記事を読み始める前にこちらをどうぞ)

「ヒトと生き物 インタビュー」企画第三弾は、九戸城流鏑馬実行委員会委員長 小館 秀樹(こだて ひでき)さん

この企画は、農業や生き物との関わりに興味があるけれど、一歩踏み出す勇気が持てない方の背中を押したいと思って始めました。今回はなんと、流鏑馬(やぶさめ)競技をされている方です!前回はくるみ農家さんだったので、ガラッと内容が変わりました。

そもそも、「やぶさめ」を「流鏑馬」と書くこともあまり知られていないですよね(笑)

今回なぜ、小館さんにスポットをあてることになったのか。

実は、小館さんは、流鏑馬の選手であるだけでなく、先に書いたように九戸城流鏑馬実行委員会という組織で普及のための活動もされているんです。

今回は、小館さんの流鏑馬との出会いから、普及活動をするようになった経緯、どんな思いで活動されているのかを明らかにしていく中で、スポーツの普及という観点で、新しいことに挑むとはどういうことなのか、考えていきたいと思います。

目次

みんなでつくる、スポーツ流鏑馬

そもそも、流鏑馬とはどんなものか、皆さんはご存知でしょうか?

流鏑馬は、古来より行われている神事で、疾走する馬上から的に矢を射る、日本の伝統的な騎射の技術・稽古・儀式です。

これは、五穀豊穣や戦勝祈願などの祈りの意味を込めて、神事に関わる選ばれた人が的を射て、当たれば成功というものです。人々の期待を一心に背負っているので、責任は重大で、外せば只では済まないような大変重い儀式でした。

鎌倉時代からは、武士の鍛錬のためにも行われていたようです。

現代では、武田流や小笠原流などの流派が古来から伝承する流鏑馬や、各地神社の神職や氏子または保存会などに受け継がれた流鏑馬が、儀式や祭典として実施されています。東北では、盛岡八幡宮で奉納される南部流鏑馬や、山形県で奉納される寒河江八幡宮流鏑馬などが有名です。

流鏑馬をする小館さん(写真は小館さん提供)

ただ、今回ご紹介する小館さんが取り組んでいるのは、その神事流鏑馬ではなく、スポーツ流鏑馬。小館さんが会員として所属する十和田乗馬倶楽部を中心に、2000年代前半に形作られた、スポーツとしての流鏑馬です。神事に関わる方でなくても、やりたいという気持ちがあれば挑戦することができます

スポーツ流鏑馬で使われる走路は、全長180〜200mで、その間に3つの的があります。的間は50〜55mあるので、加速と減速は約40mで行われることになります。

規定の範囲内で速く走り抜け、かつ的に当てていきます。また、騎乗する馬は和種の血が入っているものとすることになっています。

スポーツ流鏑馬の歴史は17年ほどで、まだまだ始まったばかり。大会ルールやライセンス資格などもできて間もないです。乗馬倶楽部によって基準がバラバラだったものを統一したりと、今を生きる人達が試行錯誤しながら仕組みを作っていくのはなかなか味わえないリアル感があります

流鏑馬ライセンス認定の流れ

他の歴史あるスポーツと違って、そのスポーツを盛り上げようとする人たちが目に見える感覚はとても暖かいものです。

小館さんをはじめ、十和田乗馬倶楽部の皆さんはとてもアットホームな雰囲気を持っています。ここに私はとても驚きました。

「皆さん、ほんとに快く出迎えてくださって、驚きました!突然やってきて、煙たがられる可能性もあると思っていたのでここの空気感はとても安心します。」

小館さん「やっぱり、新しいことをやっているところだから、っていうのもあると思います。全体的に、人を受け入れようっていう空気があります

私は、大学生で馬術を始めて、その成熟したスポーツ文化に圧倒されました。もちろん、枠組みがしっかりと確立された世界で活躍していくことも素晴らしいことですが、新しく大会をつくったり、より良い仕組みに変えていくというようなことは、難しくもあります。

スポーツ流鏑馬の世界ではそういうものとはまた別の、皆で模索できるという楽しさがあるのかもしれません。

昨年からの大会予定はコロナ禍で大概が中止になってしまったそうですが(世界選手権などは行われたそうです)、例年は、4月に十和田、5月は岩手県遠野市でこども流鏑馬が、6月は函館、7月は遠野、8月は八戸、9月は二戸、10月は最終決戦の世界大会が十和田で開催されるなど、冬場をのぞいて一年を通して活発に試合が行われています。大会参加者は北海道から九州まで。大きな大会では、選手が数日前から現地入りしたりして合宿のような状態になっているそうです。

そして、女性選手だけで行われる春の桜流鏑馬という大会があるそうなのですが、それは華々しく美しいそうです。想像しただけでも素敵ですよね。今年の開催が無事決行されるのか、2月の取材時点ではまだわかっていませんが、皆さんの意気込みは十分。私も開催されたら絶対に見に行くと約束しました。

桜流鏑馬のポスター。今年の開催が叶うことを願います。

撮る側からプロ級選手へ

今回の取材は、2月14日(日)のバレンタインの日に行いました。

取材場所である十和田乗馬倶楽部は、小館さんのお住まいのある岩手県二戸市からは車で1時間程のところ。現在はお仕事も忙しく、練習に通えるのは月に数回という中、わざわざ時間を作って会ってくださいました。

これまでの取材相手の方全員に言えることですが、本当に感謝してもしきれません。

十和田乗馬倶楽部の看板

「小館さんは普段は普通の会社員をされてるんですよね。なぜ流鏑馬に関わるようになったのですか?」

小館さん「仕事の都合で地元(二戸)に戻ってきたタイミングで、十和田で桜流鏑馬の大会があるのを知りました。ちょうど、ブログを始めたタイミングで、写真を撮ったりしていたので、観光目的で見に行ってみたんです、それが2007年頃。」

「そこから、実際に流鏑馬をやってみようとなったのはどうしてだったんですか?」

小館さん「写真を撮って遊んでいるうちに、何かのきっかけで、十和田乗馬倶楽部の代表の上村 鮎子(かみむら あゆこ)さんと話すようになりました。それから乗馬倶楽部にも遊びに行くようになって、、、」

「始められたんですね。」

小館さん「それが実際に乗ったりし始めたのは2010年(笑)。3年くらいは撮ってるだけだったんですが、競技選手にならないかと誘われて”じゃあやってみるか!”と。」

取材当日、ポニーの蘭ちゃんに乗る小館さん

「初心者はどんなかんじで練習するんですか?」

小館さん「まずは、基本的な乗り方を覚えなければいけないので、普通の乗馬のライセンスの5級とか4級を取って、それからゆっくり走る馬に乗って少し弓を引いてみたりしますね。」

「私は馬術経験者ですが、それでも馬上で弓を引くなんて想像しただけでこわいです(笑)。最初は大変じゃなかったですか?」

小館さん「まず乗っていられないです(笑)。反動が強くてね。」

「そうですよね。小館さんは初心者から始めたんですもんね。」

小館さん「そうです。馬も弓も完全に初心者。」

もともと、バイクに乗っていたりして、馬に乗ることにそこまで大きな違和感はなかったそうですが、現在の小館さんの腕前はプロ級!大変な努力をされたことが伺えます。

初級:乗馬ライセンスの5級・4級を取得した上で、所属する乗馬クラブからの推薦がある人。流鏑馬ライセンス(流鏑馬ライセンス認定の写真参照)でいうと3級程度。
中級:数年の練習期間を経て、ある程度経験を積んだ人。流鏑馬ライセンスでは2級程度。
プロ級:最上級。現時点では数名しかいない。流鏑馬ライセンスでは1級程度。
この3つの区分(中級とプロ級の間に上級が入ることもある)も、最近は客観的な基準を決めて、仕組みを体系化してきているところだそうです。

ちなみに、今回、小館さんや十和田乗馬倶楽部のご厚意で、馬に乗せていただきました。乗せてくれた蘭ちゃんは、ポニーですが、流鏑馬でも活躍する子だそうです。また訪れることができたら、蘭ちゃんに乗って流鏑馬をやってみたいです!

やりたい!から広めたい!へ

実は、小館さんと知り合ったのは、今話題の音声SNS「Clubhouse」。

私自身、馬や農業に関わる方の中で、普通なら知り合えないような方とも交流できたらなと思っていたんですが、まさか近い地域に住む方で、こんな面白いことをしている方がいらっしゃるなんて思ってもいませんでした。

「Clubhouseでお話した時も流鏑馬について説明されていましたが、小館さんは流鏑馬の普及活動もされてますよね。」

小館さん「九戸城流鏑馬実行委員会の委員長をやってます。」

「二戸にあるのに九戸城っていう城跡ですよね。」

小館さん「そうそう(笑)。」

九戸城流鏑馬実行委員会は、その名の通り、九戸城で流鏑馬をやること普及させるための任意団体です。

「どうしてこういう活動を始められたんですか?」

小館さん「元々は自分の地元で流鏑馬をやってみたい、それで地域おこしができたらなという思いで始めました。」

「お城があった場所で流鏑馬をするなんて素敵ですもんね。今は考えが変わったりされたんですか?」

小館さん「スポーツ流鏑馬なんていうこんな特殊なことをやっている人って少ないじゃないですか(笑)。でも、そんなに敷居の高いことではないんだよって知ってほしいと思います。主催者側になるようになると、意識が変わってきました。仲間を増やしたいとか知ってもらいたいとか。」

委員会は地元の方や乗馬倶楽部の会員さんで賛同してくれる方などと数人でやっているそうですが、すでに5年ほど、秋に大会や体験会を行ったりしているそうです。また、岩手県内の小学校でイベントを行うなど、任意団体とは思えないほどこれまでの活動は活発です。さながら、ツアーのように、イベントに参加するお客さんをバスで送迎するようなものもあったそう。

小館さん「まず自宅から盛岡まで向かって、それからお客さんと一緒にバスで会場の十和田乗馬倶楽部まで行って、終わったらまたバスで盛岡まで戻ってきて、そこから家に帰るっていうハードなスケジュールでした(笑)。」

「小館さんにとってはすごく大変ですよね。でも、お客さんにとってはすごく助かると思います。確かにそのくらいやらないと馬の近くにすら来てもらえないですしね。まずは”来てもらう”ことが大事なので、とてもいいアイディアですね!」

馬がいるような場所、競技場や乗馬倶楽部は、アクセスがいい場所にあるとは限りません。馬は音などに非常に敏感な生き物なので、人が集まるようなところにはあまり向かないのです。だからこそ、お客さんを呼び込むことは難しいです。そもそも敷居が高いと思われがちなものなのに、会いに来づらいのであれば余計に大変です。

まずはどうやったらお客さんに馬や流鏑馬というスポーツの素晴らしさを知ってもらうか、それを真剣に考えた時に、お客さんの立場に寄り添うということは、当たり前ですが大きなポイントだなと感じました。私も大学時代、馬術に打ち込んでいた頃は「どうやったら馬術のことを知ってもらえるだろうか」とよく考えていて、「でもやってみないと面白さがわからないんだよなあ」という壁にいつもぶち当たっていました。

スポーツの普及は、想像以上に難しいです。テレビなどでよく取り上げられるわけではないマイナースポーツを広めるために、どう取り組んでいけばいいのか。大きなムーブメントを起こすまではいかなくとも、地道にやれることをやっていけばそれが形になっていくことを、小館さんや十和田乗馬倶楽部の皆さんは見せてくださっているように思えました。

どの世界からでもWelcome

馬にも乗せてもらいつつ、小館さんのお話を聞いていると視界に大きな弓が。

「もしかしてあれが…??」

小館さん「そうです。持ってみます?」

部屋を移動して、弓道場で実際に弓の引き方をレクチャーしてもらいました。

弓道練習場で実際に弓を持ってレクチャーしてくださる小館さん

スポーツ流鏑馬では、競技の公平性と安全性、そして馬上での美しい騎射姿勢を表現するために、規定により弓の強さは中級までは8kg以下、プロ級は10kg以下と定められています。また、弓道の世界では、重いや軽いといった表現は使わず、強い弱いという言い方をします。8kgという強さは弓道においては弱い部類に入るそうです。

8kgは弱い弓とはいいますが、素人の私からするととても強く感じました。特にそれは、実際に弓を引いた時に感じます。そして、全く触ったこともなかったのもあって、やり方がわからない(笑)。
強さというより、初心者には扱い方が難しく感じました。それを馬上で扱うのですから、至難の技です。流鏑馬には、弓道の世界からやってくる人と、馬術の世界からやってくる人、そしてどちらも初めての人がいます。そして小館さんは、どちらの技術も完全初心者からプロ級の腕前にまでなられました。

スポーツ流鏑馬は発展途上なこともあり、門戸は常に開かれています。私も勧誘を受けました(笑)。もしこの記事を読んで、スポーツ流鏑馬の世界に興味が湧いた方は、ぜひ十和田乗馬倶楽部のホームページなどをのぞいてみてください。

また、神事の流鏑馬に関しては、お話にもあったように、実は意外と日本各地に流鏑馬を見られるところがあるそうなので、お住まいの地域で調べてみるのもいいかもしれません。

今回の取材は、「ヒトと生き物 インタビュー」企画初めてのスポーツに関する内容ということで、私もどうなるのだろうとワクワクしていたのですが、想像以上に興味深いお話を聞くことができました。馬が大好きで、一生関わっていきたいと心に決めている私ですが、まだまだ知らない世界がたくさんあるのだなあと嬉しく感じます。あらためて、インタビューを受けてくださった小館さんに感謝いたします。

馬の世界がこんなに面白いものなんだと、そして、それを広めるために力を尽くしている方がいるのだと知ってもらえたら、この記事も意味あるものになります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

個人ブログ:どーなのよふぃるむ
YouTube:Donanoyofilm
九戸城流鏑馬実行委員会

せシうだBlog - にほんブログ村

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URL Copied!
  • URL Copied!

この記事を書いた人

はじめまして、管理人のせシうだです。
好きなことは馬と農業です。

5 2 votes
Article Rating
Subscribe
Notify of
guest
0 Comments
Inline Feedbacks
View all comments
目次
閉じる